浅井 基文 | 国際政治学・平和学、元広島市立大学広島平和研究所長 |
秋山 豊寛 | 宇宙飛行士・ジャーナリスト、京都造形芸術大学教授 |
安斎 育郎 | 放射線防護学・平和学、立命館大学国際平和ミュージアム名誉館長 |
池内 了 | 宇宙物理学、総合研究大学院大学教授・理事 |
小出 五郎 | 科学ジャーナリスト、元NHK解説委員 |
藤岡 惇 | アメリカ経済学・核軍縮論、立命館大学教授 |
"JAXA for Peace" Appeal |
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政府は、独立行政法人 宇宙航空研究開発機構(JAXA)法(以下、JAXA法)を改定し、宇宙開発を「平和の目的に限り」(第4条)とする現在の規定(以下、平和目的規定)を削除しようとしています。JAXA法からの平和目的規定の削除は、これまで平和利用に徹してきた日本の宇宙開発や科学のあり方を大きく転換するものです。日本の進路は、戦争放棄の平和主義の道か、軍事大国化の道かをめぐる岐路に立たされていると言っても過言ではありません。 私たちは、宇宙の軍事利用に歯止めをかけるため、また、宇宙のロマンを大切にするため、JAXA法から平和目的規定の削除に反対します。それは、以下の5つの理由に依ります。 |
"JAXA for Peace"事務局 | |||||||
〒113-0034 東京都文京区湯島1-9-15茶州ビル9階 九条科学者の会気付 世話人:多羅尾光徳(東京農工大学) 浜田盛久 (元・東京工業大学) |
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最終更新日 2012年7月8日 ホームページ移設 2014年5月27日 |
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1. 憲法の平和原則に抵触する |
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JAXA法改定の直接的な契機となった宇宙開発戦略専門調査会の報告「宇宙空間の開発・利用の戦略的な推進体制について」(2012年1月13日)は、「JAXA法の平和目的規定を宇宙基本法と整合的なものとするべきである」と述べています。しかし本来、宇宙基本法のほうが上位法である日本国憲法と整合的なものでなければならないはずです。JAXA法が宇宙基本法と整合的ではないという理由で平和目的規定を削除するのは、憲法の平和原則に矛盾する本末転倒の議論です。 | ||||||||
2. 宇宙の軍事利用のさらなる拡大につながる |
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日本の宇宙開発は、1969年の国会決議に基づき、永く非軍事に限られてきました。ところが 2008年5月に成立した宇宙基本法は、第2条で宇宙開発利用を「日本国憲法の平和主義の理念にのっとり、行われるものとする」と規定する一方、第14条で「我が国の安全保障に資する宇宙開発利用を推進するため、必要な施策を講じるものとする」と規定して、宇宙の軍事利用への道を開いています。そのため,宇宙基本法の成立に際しては多くの科学者・市民が、日本の宇宙開発をゆがめ、宇宙の軍事利用の拡大につながる恐れがあると、危惧の声を上げました。残念ながら、実際にその後、日本は宇宙の軍事利用の道へと踏み出し始めました。2009年に制定された宇宙基本計画では,自衛隊による偵察衛星の利用が国家戦略として位置づけられました。経団連などの財界は、宇宙を軍事・商業目的のために積極的に活用する要求を強めています。今回のJAXA法の改定は、宇宙基本法で危惧された宇宙の軍事利用の拡大のさらなる具体化です。 | ||||||||
3. 科学の公開性・民主性の原則が侵される |
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JAXAで軍事研究が行われるようになると、「安全保障」を理由に研究成果の公開や、研究の交流や、自由な議論が妨げられる恐れが生じます。 この心配はき憂ではありません。日本の情報収集衛星は、大規模災害(新潟県中越地震,福岡県西方沖地震,能登半島地震,新潟県中越沖地震、岩手・宮城内陸地震、岩手県沿岸北部地震、霧島山の火山活動、東日本大震災など)の被災地上空からの写真撮影を行っています。撮影画像は「必要に応じ、関係省庁にその結果を配布・伝達した」とされていますが、「秘密について保全措置を講じる者以外には非公開」を理由に公開されていません。 さらに心配なことは、第180回通常国会に、いわゆる「秘密保全法」も提出されることです。公務員のみならず、大学などの研究施設や民間企業で働く従業員にも懲役10年の刑罰を科する秘密保全法の目的は、軍事機密を守ることにあります。このような法律が成立すれば,軍事に関わる研究はますます公開が妨げられ、国民が必要とする情報はますます入らなくなります。 政府は、宇宙開発戦略専門調査会の報告に基づき、文部科学省宇宙開発委員会を廃止し、JAXAの所管を文部科学省と内閣府の共管に改正し、関係省庁(防衛省・経産省なども含む)が一体となって宇宙開発を進めるよう体制を整備するとしています。情報保全隊を使って国民を監視してきた防衛省や、「やらせシンポジウム」を行い原発の安全神話を振りまいてきた経産省などが何を秘密にしてきたかを考えれば、JAXA法改定と秘密保全法制定によって何が起こるかを想像することは難くありません。 軍事技術は本来、機密を旨とします。異論を排して秘密主義に陥れば、宇宙開発の分野に国民の目が届きにくくなり,重大な税金の無駄遣いや政官学の癒着の温床となります。これでは、宇宙開発の利益共同体(第2の「原子力ムラ」)が形成されることも大いに懸念されます。 |
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4. 研究の自由の侵害につながる |
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JAXAでの研究が軍事目的を排除しないものとなれば、JAXAで働く科学者・技術者が業務命令で軍事研究に従事させられる恐れがあります。これまで軍事とは無縁であったからこそ、「はやぶさ」の快挙に見られるような、自由な発想で挑戦し世界的に優れた成果をあげてきた科学者・技術者を軍事に動員することは、研究の自由や思想・良心の自由を侵害することとなり、日本の宇宙開発研究にとってむしろ障害となるに違いありません。 | ||||||||
5. 一部の人たちの議論だけですすめられており,当事者であるJAXAの研究者・技術者,および国民の声が反映されていない |
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JAXA法からの平和目的規定を削除するきっかけとなった報告を出した宇宙開発戦略専門調査会は大学の学長・教授,民間企業経営者など14人で構成されていますが、JAXAの関係者は上杉邦憲氏(JAXA名誉教授)と向井千秋氏(宇宙飛行士・JAXA特任参与)のみです。このように、平和目的規定が削除されることで直接影響を受けることになるJAXAの科学者・技術者を排除し、宇宙開発利用に利害関係を有する人たちだけでJAXAの今後のあり方が決められることには,疑問を抱かざるを得ません。また,報告が提出された直後に、当事者であるJAXAの研究者・技術者や国民の議論を経ずにJAXA法に重大な改定を加えることは、極めて拙速との批判を免れないでしょう。 |