池内 了さんの記者会見での発言(2012年3月7日)

    私は「世界平和アピール7人委員会」の一員なのですが、2008年5月に成立した宇宙基本法に警鐘を鳴らす声明を出しました(2008年8月)。そのような経緯もあって、私は宇宙開発・宇宙利用に関して常々関心を持ってきました。私は宇宙物理学が専門ですから、宇宙科学研究者とも接点があります。そのようないきさつもあって、本ネット署名の呼びかけ人になりました。

 JAXA法の改定案について、私自身が一番心配していることは、日本がなし崩し的に軍事大国になっていくことです。1969年の国会決議は「宇宙の利用は平和目的に限る」と謳っていますが、2008年に成立した宇宙基本法では、安全保障目的のために宇宙を使えることになりました。直ちに軍事大国になるのではなく、一つずつ、潰されながら軍事大国化の道を歩んでいます。私はそれを一番懸念しています。

 もう一点、私が心配していることは、軍事利用には歯止めがないことです。「安全保障」あるいは「抑止力」という言葉を使うと、何でも許されます。日本の産業界は、宇宙の商業利用のためには軍事利用が最も 手っ取り早い、軍事機密に守られて旨い商売ができると考えています。そのような流れの中で、情報収集衛星(スパイ衛星)から弾道ミサイルへとつながっていく。小さいうちに潰しておかなければなりません。

 科学とは、本来、公開が原則の公共財ですが、軍事的な要素が絡まると、非公開の恐れが高まってきます。今国会には、秘密保全法も上程されようとしています。この「秘密保全法」の網を被せられると、例え科学研究であっても自由に発表できるようになるかどうか分からなくなります。現在のJAXA宇宙科学研究所は大学共同利用機関であり、衛星の設計から製作までボトムアップで、全国の利用者の英知を集めて進めていくというスタイルを取っています。しかし、「秘密保全法」の網が被せられると、どうしてもトップダウンの運営にならざるを得ないでしょう。現在のJAXAの予算3000億円の うち、宇宙科学研究予算は200億円ぐらいです。10分の1以下ですね。今後、宇宙科学研究がなくなることはないでしょうが、その重要性は薄れていく可能性があります。その懸念をすごく強く持っています。 人々が「はやぶさ」に夢や憧れやロマンを持ったのは、宇宙が平和のために、科学研究のために純粋に使われることに対しての賞賛も含まれるわけです。ヨレヨレになって帰ってきた「はやぶさ」の物語への感動もあったわけです。科学には物語が必要ですが、スパイ衛星は物語を生み出さないでしょう。ヨレヨレで帰っ てくることはないわけです。人々が持っている夢や憧れやロマンを本当に大事にするためには、宇宙の利用・開発は平和路線でいくことが基本的に重要です。

 一歩でも 軍事大国化への道を歩み始めると、止められなくなります。宇宙基本法の時もそうでしたが、今回のJAXA法改定についても報道が非常に少ない。ほとんどの人々が知らない状況です。JAXA法は、宇宙基本法よりも下位の法律なので、人々の関心は宇宙基本法の時よりも小さいかもしれないけれども、実はそれこそが、 軍事大国化への具体的なステップとして使われていくと思います。報道機関の皆さんは、その点をぜひ、肝に銘じて監視をしていただきたいと思います。